昭和30年代の中ごろは、少年雑誌の発行部数が伸び、テレビが急速に普及した時期であるが、ロボットものはこれらの媒体で人気の作品ジャンルであり、当時の子供の科学的な興味を“くすぐる”大きな要因になっていたように思える。特にテレビアニメ初期の作品、鉄腕アトム、エイトマン、鉄人28号はこの時期の“ロボット御三家”といえる存在であり、当時多かった海外のSFドラマでもロボットは度々登場している。現在の、ロボット研究・開発のリーダ的立場の方々には、この時期に少年期を過ごされた方が多いのではないだろうか。
昨年2003年4月は、鉄腕アトムの誕生年、誕生月ということもあり、ロボットの催しものである“ROBODEX2003”前後の時期、大きな盛り上がりを見せたのも記憶に新しいところである。新聞、テレビ、経済誌、情報系や機械産業向けの専門誌でもロボットの特集が組まれ、一般でのロボットに対する興味も高まりを見せた1年であった。
一般のロボットへの関心は、二足歩行のいわゆるヒューマノイドロボットや、一部で商品として発売されたものなどがメディアを通じて発せられることで、一種のブームとして高まったものと思える。また、こうした高まりを見ていると、製品市場が顕在となるのも間近という感覚も生まれてくる。
しかし、ロボットにかかわる大きなイベントのなかった本年は、やや沈静化した状況にあるように感じられる。実際のところ、イベントやそれに関連したメディアの活動がなければ、ロボットを目にすることは少なく、一般に訴求する場面はきわめて少ないことに気づかされる状況である。
国が示した今後期待される産業の一つに、パートナーロボットも挙げられており、この点からも注目すべき分野であることは事実である。しかし、前述のように話題となる要因がなければ注目を集められない点は、現状が、まだ事業として展開する以前の段階であり、話題のみ先行している分野であることを裏付けるものである。未だ、数十年前から続く“夢の実現”を文字通り“夢みつつ”開発が続けられている段階である。
本調査レポートは、人の生活や活動に関わるロボットを、製品市場として現実的な視点で調査・分析することに主眼をおいてまとめたものである。こうした視点で、現状のロボットを見ると、参入企業や、製品、試作品の数が案外少ない点に気づく。昨年のイベントなどで公表されたロボット群からほとんど変化のない状況であるが、こうした状況が、ロボットを目にする機会の少なさの所以である。このロボット市場は、2004年の現在が、製品市場の開拓に着手した初期の段階であり、“黎明期の、さらに始まりの段階”と表現できる。
来年、2005年は愛知万博“愛・地球博”があり、この会場ではロボットを大きく取り上げる演出がなされるようである。また改めてロボットの話題が高まるものと推察されるが、ここでは、実用目的に開発されるロボットが公表される見込みである。ロボットの市場拡大のためには、当然のことながら実用向けのロボットの登場と、それらの増加が必要である。このように、実用目的のロボット開発に、今、注力しようという方向性が示されている点からもわかるとおり、ロボット市場は、2004年現在の段階において、現実的な視点で観察する段階に入ったというところであり、実業という視点では、これから変化が始まり、おそらく10年、15年という長期的な展望で、創造してゆく必要のある分野といえよう。本レポートは、これから本格化するであろうロボット開発と市場創造に先駆け、一助となるよう作成したものである。