バイオメトリクスとは、身体(からだ)の一部を利用して、個人が誰であるのかを認証する技術である。もっともポピュラーなものとしては指紋が用いられ、これまでは、軍事施設や原発など重要な施設で使われていた技術である。それが、ここ最近で携帯電話にも利用されるなど、一般生活レベルにまで広まってきている。認証の方法としては、ほかに、顔や虹彩、手のひらや指の静脈、音声や筆跡を認証の対象とする技術も商品化されている。
アメリカでは2001年の9.11の同時多発テロをきっかけにバイオメトリクスの必要性が叫ばれるようになった。アメリカでは2003年から「US-VISIT」という制度を開始している。アメリカに入国する際に、写真とともに指紋などの「生体情報」を収集し、個人が誰であるのかを特定することで、アメリカに入ってくる人間を「ふるい」にかける。テロリストの流入を防ぐのが目的である。日本でも主要国際空港では、顔認証によるスクリーニングを行なうようになっている。
しかしながら、指紋というと、まず犯罪捜査や移民の登録にも使われている悪いイメージが強く、一般の人には抵抗感があるのが実情である。一方で、また日本に視点を移してみると、「機密情報漏えい」の対応として、バイオメトリクスの導入が始まっているが、やはり、指紋を収集されることに対して、抵抗感があるようだ。それでも、管理する側の都合で、バイオメトリクスの導入はどんどん進んでいる。というのも、テロや情報漏えいを未然に防ぐという目的があるからで、安全の代償として、指紋を取られることもやむを得ないとの考え方が世間一般に広がってきているように思える。
日本では、機密情報漏えいのリスクを防ぐための手段となり、顧客リストなど個人情報への不正アクセスを未然に防ぐ目的で導入が進んでいる。これまでは、企業(官公庁もだが)において、顧客情報などのデータベースへのアクセスは、パスワードやICカードで管理されていた。建前としては、相応の責任を持った管理者のみが、アクセスできることになっているのだが、パスワードとカードを持っている人間が許可を受けた本人であるかどうかの確認を取ることはできない。これは、前出の入国管理にも言えることで、ビザを取得した人間と実際に入国した人間が同じ人物とは限らないことが、それぞれシステム上の問題として露呈してしまったのが、昨今の情報漏えい事件とも言えるだろう。
このようにバイオメトリクスは、安全を保つ上で不可欠の技術となるのだが、しかしながら、これを管理主義的な考えだけに留めてしまうのは、あまりにも短絡的である。たしかに指紋を取られることに抵抗感はあるのかも知れないが、都合が悪いのは、あくまでテロリストや個人情報を盗もうとする悪意のある人間だけのはずで、大多数の善良な人間にとっては、安全ということだけでなく、入国審査の処理が早くなることや、安心してインターネットでの行政サービスやネットショッピングができるようになるなど、数々の利便性を得ることのできるメリットのほうがはるかに大きい。
2003年のバイオメトリクス技術は、携帯電話やPC、PDAなどに搭載されはじめた。今後は、家電や自動車、ロボットへの応用など市場性が研究されている。今回の2004年版レポートにおいては、今後の発展が期待されるバイオメトリクス市場について、現状の製品について参入各社の現状または新規参入者の戦略を捉えた上で、今後の市場将来性についての予測提案を主題としてデータをまとめている。今回の「バイオメトリクス総調査2004」が、関係各社各位の事業戦略への基礎データとして活用していただくことで、バイオメトリクス市場全体の更なる発展に寄与できれば幸いである。