コンテンツは、書籍、映画、テレビなど普段の生活や、仕事の場面において、見る・聞くものすべてである。書店で販売される書籍、VHSビデオのセル・レンタル、映画興行実績など媒体の種類、文字、絵、音などの表現手法、テーマ、目的を問わず、編纂されたものすべてによって構成されているのがコンテンツ市場である。
コンテンツという単語は、ここ10年ほどの間に情報・通信分野で良く聞かれるようになり、弊社のような市場調査機関でも、もう何年にもわたってテーマとして取り上げている。特に、'95年ごろからだったと記憶しているが、インターネットがビジネス分野から、一般の生活に波及して行く中、このコンテンツという言葉も盛んに使われるようになった。
経緯とこれまでの経過時間からみれば、コンテンツ市場は、いわゆるITの世界において、大きな市場を形成しているようにみられ、デジタル化されたコンテンツ市場が確立しているかのように感じられる。しかし、コンテンツ市場の大半は、先述の通り書籍、パッケージ映像作品など、旧来の商品市場で確立しているのが実情で、昔から形成されている市場である。具体的な数値で市場規模をみると、国内全コンテンツ市場は、12兆7千億円(2003年度末)とされている。デジタルコンテンツは、この中の一画を占める分野である。
旧来の非デジタルのコンテンツが、デジタルに置き換わると考えれば、この12兆円余の市場は、そのままデジタルコンテンツの市場ポテンシャルという見方もできる。現状でも映像系の作品市場では、デジタル化により過去の作品が、再度商品事業として拡大している例も多い。
しかし、コンテンツにしろ、他の製品市場にしろ、事業が成立するためには、“その物品”が“金に変わる”その物品によって“金が落ちる”という商売の仕組みが必要である。旧来のアナログのコンテンツでは、書店とそのルート、映画と映画館その他パッケージものの販売・レンタル、テレビの民放や、最近のフリーペーパーなどの訴求価値を反映した広告収入等々、“その物品”ごとに見合った流通モデルがある。
デジタルコンテンツは、一つに過去のコンテンツをデジタル技術で再製(作り直し)するモデルもあるが、多くは、デジタルの情報通信環境を基盤とするインフラ内で、過去にない利便性と、より質の高いコンテンツを提供する、従来と異なる市場が期待されるものである。インターネットの普及、ADSL・光(FTTH)のBB(ブロードバンド)、地上デジタル放送、携帯電話といったインフラ側と、この中に流すためのデジタルコンテンツが同調して、効果を生み出す世界である。
2004年末現在、国内のデジタルインフラは、最後で最大の情報インフラである地上放送がデジタル化に向かい、その整備が順調な進捗を見せているのを受けて、2011年には、国内のすべてがデジタルに移行することになる。デジタルコンテンツ市場に必要なのは、コンテンツ流通のための機構であるが、エンタテインメントから、生活情報、本年のような災害多発時に実際に役に立つ防災情報網など、インフラが整いつつある現在、すべてを俯瞰して改めて適所な機構作りが必要と考えられる。
インターネットのブームなど象徴的であるが、その時、その時点のみのブームで、サービス機構を構築した結果、統合的な環境作りの弊害が出ている例が多いように見受けられる。また、エンタテインメント分野の場合でも、商業的に成功している例は未だ少ない状況である。
各インフラ間、デバイス間の情報ローミング、エンタテインメントから生活情報まで、常に“使いものになる”情報環境のためには、Javaで提唱されるような共通の環境作りを、本格的に検討すべき時期にあると考えられる。その結果、行き着くところにユビキタスの情報環境と、その上で、自由に使いこなす、あるいは消費されるコンテンツ市場が確立することになる。
この調査レポートは、デジタルコンテンツ市場をテーマに、毎年定点観測しているものであるが、この市場には、単にコンテンツを並べるのではなく、同時に“金を生み出す”仕組みづくりの必要性が大きいものと感じられる。また、そこに“稼ぐ場所”があると考えられる。
テレビ放送、BB、ケータイ、その他分野を含め、コンテンツ流通の解析には、なかなか見え難いものがあるが、市場規模、事業モデルなど、数的・視覚的に判読できるよう、また、理想の環境と現実の市場やニーズの実際といった、新規の市場に付きものの問題も抽出して一冊にまとめた。